筆のお手入れ方法や、筆全般及び豊橋筆の種類や歴史などをご紹介しております。
筆の手入れの仕方
太筆は、購入した状態から固まっている糊を根元まで全てとった方が書きやすいです。
書いて筆に墨が付いたままの状態はよくありません。その日のうちに水を流しながらしっかり根元まで指で揉んで洗ってください。そしてぶら下げて乾かしてください。そうすると長持ちします。
洗剤は使用しないでください。シャンプーは頭皮の油を落とすもので墨を落とすものではありません。
水で筆を洗えないこともあるかと思います。その時は極力練習で書いた紙(反故紙)などで墨を拭きとってください。
筆の材料の特徴
書筆の材料になる毛は、おもに馬、山羊(ヤギ)、イタチなどです。他には鹿やタヌキ、豚も使ったりします。
太筆は主に山羊と馬を混ぜ合わせて作ります。馬は力が強いので止め、払いがしやすいですが、その分墨含みが悪いです。山羊は墨含みが良いですが、力がなく思うように毛先が動いてくれません。なので馬と山羊を混ぜて作ります。
イタチはよく細筆に使用されます。イタチは穂先が綺麗でまとまりがよく、毛は柔らかいですが竹のようにしなる強さがあります。その分イタチの筆は高価になりやすいのですが、少し消耗が早いです。
毛の種類と配合で筆の方さや書の滑らかさが変わります。それぞれの毛には長所と短所があり、理解してから使うと書もより上達するかもしれません。
役目を終えた筆の始末
ごみとして出してもかまいませんが、神社などの筆供養もあります。その筆に感謝すると共に、筆は動物の毛から出来ているのでその動物たちの供養としても手を合わせてはいかがでしょうか。「筆塚」は全国各地にあり、豊橋からすぐ近くの橘逸勢神社(たちばなのはやなりじんじゃ)にも筆塚があります。
筆工房由季では、筆づくりの工程で出る「筆の端材」についても無駄にしないようにとの思いから、2018年から毎年『筆の端材でリサイクルコンテスト』を主催しています。また、お子さんを対象としたワークショップ『筆の端材で遊んでみよう』の開催や、『筆の端材工作キット』の企画・販売などを通じて、豊橋筆の素晴らしさと筆づくりに欠かせない素材の大切さを伝えています。
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豊橋筆の歴史と特徴
<豊橋筆の歴史>
豊橋筆の起源は文化元年(1804年)にさかのぼり、京都の鈴木甚座衛門が吉田藩(豊橋)学問所の御用筆匠に迎えられ、毛筆を製造したのが最初であるといわれています。
豊橋筆が日本国内にその名を知らしめるきっかけは、豊橋が交通の要所であったことによります。豊橋は東海道五十三次の宿場町(吉田藩)として大いに栄え、日本有数の墨の産地である奈良の墨商人が上京の折、この地で豊橋筆の存在を知り、江戸への販路拡大を進言したことも豊橋筆の名声を高めました。
このような結果、豊橋筆は脈々と伝統を受け継ぎ、昭和51年12月15日には、その歴史と品質が高く評価され、通商産業省(現 経済産業省)より「伝統工芸品」の指定を受けました。当工房の中西由季も継承される伝統工芸「豊橋筆」の一端を担う若手筆職人の一人として、師匠である 川合福瑞氏の教え「使い手に寄り添う」の言葉を胸に、日々研鑚に努めております。
<豊橋筆の特徴>
豊橋筆は、「水を用いて練り混ぜ」をするので墨になじみやすいため、書き味がすべるようだと多くの書家の絶賛を集めています。 現在では広島県熊野町についで全国2位の生産量を誇っており、特に高級品の分野に関しては、生産量、金額とも他を多きく引き離し、高級品の7割は豊橋で生産されています。筆の良否をわける材料と腕の良い筆師に恵まれ、伝統工芸士には12人が認定されています。
豊橋筆は全国に多数流通をしていますが、その製品は無印で出荷され販売者の店のラベルが貼られるため、書家から長く支持を受けている割に一般的な知名度は低いともいえます。
また、作り手は零細な家内工業が多く職人の高齢化も進んでいるため、後継者の確保と育成、技術継承、原材料の保存と品質の向上などに積極的に取り組んでいます。
(写真は、豊橋筆の師匠であり2019年秋の叙勲を受けた伝統工芸士 川合福瑞氏のもとで修業中の中西由季)